【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
身支度を終えて百合が廊下に出ると階下からコーヒーの香りが漂ってきていた。
一階のリビングとダイニングルームはつながっていて、天井はなく吹き抜けになっている。
広々とした空間に天窓から取り込まれた明かりがさんさんと降り注いでいた。
開放感あふれる別荘風の一軒家といった印象だ。
リビングから階上へ伸びる階段を下りていくと、テーブルに朝食を用意している鬼嶋と目が合った。
「おはよう、如月さん」
――ああ、昨夜の笑顔と同じだ。
鬼嶋の浮かべた笑顔にホッとする。
「お手伝いしましょうか?」
声をかけたものの、すでに朝食の準備はあらかた整っているようだった。
フレンチトーストにこんがりと焼き目がついたベーコンエッグにサラダ……完璧な朝食だ。
「気にしないで。後はコーヒーを淹れるだけだから。……窓を少し開けてもいいかな?」
一階リビングの窓からの景色は壮観だった。
高台に建っているらしいその家からは青く透き通った空と近く遠くに鮮やかな新緑の山々が見渡せた。
大きく開いた窓から瑞々しい木々の匂いを乗せた風が優しく吹き込んでくる。
「……気持ちのいい風ですね。木がたくさん使ってあって……素敵なお家」
テーブルに着き、あらためて周りを見渡しながら百合は言った。
「週末だけ利用している家なんだ。いつもは都内のマンションに寝泊まりしているけど」
カップにコーヒーを注ぎ、百合に差し出しながら鬼嶋は続けた。
「この辺りの自然が好きでね。思い出深い場所だし」
「思い出深い……? そういえばここは……」
見渡す限り緑に覆われた山の稜線はなぜか百合の心に郷愁を呼び起こした。
「もしかして……N市?」
「さすが、地元の人だね」
端正な顔を綻ばせて、鬼嶋が嬉しそうに百合を見つめた。
「だいぶ、山の中まで入ったほうだけれどね。……昔、俺もこの辺りに住んでいたから」
「鬼嶋社長が?」
洗練された物腰から、百合は何とはなしに鬼嶋を『都会の人』だと思い込んでいた。
「そんな、驚くことないじゃないか」
「いえ、社長は何だか……。完全に都会の人だと思っていたから」
同郷だったんだ……。そう思った途端、若くして社長、おまけにハイスペックイケメンで、ある意味雲の上の人だと思っていた鬼嶋に対してほんの少し親近感がわいてくる。
「この土地を離れていた時もあるけれど……。俺にとって居心地のいいと思える場所はここなんだ」
窓辺に歩み寄り、すぐ外に広がる絶景に目を細めてから鬼嶋は百合の方に向き直った。
「……君は、どう思う? 面接の時も同じようなことを聞いたけれど」
本心を見透かすような鬼嶋のひたむきな視線に捉えられたら最後、百合には口を開くしか術がない。
「私も……。この辺りの自然が、とても好きです。東京に出てからは尚更……懐かしいと思うことも増えて」
百合も席を立って窓辺に向かい、遠くの山の稜線を見ながら心に浮かんだありのままをつい口にした。
「四季を感じて暮らすことができる……。こんなお家で過ごせたら、どんなに楽しいだろうと思います」
「だったら、ここで暮らさないか?」
思ってもみない言葉が降ってきて、百合はすぐ隣に立つ鬼嶋を見つめた。
鬼嶋の濡れたような瞳が瞬きもせずに百合を見つめ返していた。
「まずは、週末だけでも……。俺は、この家で君と一緒に過ごしたい」
一階のリビングとダイニングルームはつながっていて、天井はなく吹き抜けになっている。
広々とした空間に天窓から取り込まれた明かりがさんさんと降り注いでいた。
開放感あふれる別荘風の一軒家といった印象だ。
リビングから階上へ伸びる階段を下りていくと、テーブルに朝食を用意している鬼嶋と目が合った。
「おはよう、如月さん」
――ああ、昨夜の笑顔と同じだ。
鬼嶋の浮かべた笑顔にホッとする。
「お手伝いしましょうか?」
声をかけたものの、すでに朝食の準備はあらかた整っているようだった。
フレンチトーストにこんがりと焼き目がついたベーコンエッグにサラダ……完璧な朝食だ。
「気にしないで。後はコーヒーを淹れるだけだから。……窓を少し開けてもいいかな?」
一階リビングの窓からの景色は壮観だった。
高台に建っているらしいその家からは青く透き通った空と近く遠くに鮮やかな新緑の山々が見渡せた。
大きく開いた窓から瑞々しい木々の匂いを乗せた風が優しく吹き込んでくる。
「……気持ちのいい風ですね。木がたくさん使ってあって……素敵なお家」
テーブルに着き、あらためて周りを見渡しながら百合は言った。
「週末だけ利用している家なんだ。いつもは都内のマンションに寝泊まりしているけど」
カップにコーヒーを注ぎ、百合に差し出しながら鬼嶋は続けた。
「この辺りの自然が好きでね。思い出深い場所だし」
「思い出深い……? そういえばここは……」
見渡す限り緑に覆われた山の稜線はなぜか百合の心に郷愁を呼び起こした。
「もしかして……N市?」
「さすが、地元の人だね」
端正な顔を綻ばせて、鬼嶋が嬉しそうに百合を見つめた。
「だいぶ、山の中まで入ったほうだけれどね。……昔、俺もこの辺りに住んでいたから」
「鬼嶋社長が?」
洗練された物腰から、百合は何とはなしに鬼嶋を『都会の人』だと思い込んでいた。
「そんな、驚くことないじゃないか」
「いえ、社長は何だか……。完全に都会の人だと思っていたから」
同郷だったんだ……。そう思った途端、若くして社長、おまけにハイスペックイケメンで、ある意味雲の上の人だと思っていた鬼嶋に対してほんの少し親近感がわいてくる。
「この土地を離れていた時もあるけれど……。俺にとって居心地のいいと思える場所はここなんだ」
窓辺に歩み寄り、すぐ外に広がる絶景に目を細めてから鬼嶋は百合の方に向き直った。
「……君は、どう思う? 面接の時も同じようなことを聞いたけれど」
本心を見透かすような鬼嶋のひたむきな視線に捉えられたら最後、百合には口を開くしか術がない。
「私も……。この辺りの自然が、とても好きです。東京に出てからは尚更……懐かしいと思うことも増えて」
百合も席を立って窓辺に向かい、遠くの山の稜線を見ながら心に浮かんだありのままをつい口にした。
「四季を感じて暮らすことができる……。こんなお家で過ごせたら、どんなに楽しいだろうと思います」
「だったら、ここで暮らさないか?」
思ってもみない言葉が降ってきて、百合はすぐ隣に立つ鬼嶋を見つめた。
鬼嶋の濡れたような瞳が瞬きもせずに百合を見つめ返していた。
「まずは、週末だけでも……。俺は、この家で君と一緒に過ごしたい」