元カレと再恋愛ってありですか？

再会のブラックコーヒー

「そこを何とかお願いします。棟梁！」
パンツスーツにスニーカー、頭にはヘルメット姿のいかにも大工仕事の似合わない格好の女性。
「お願いします。どうしてもここの素材は変えたいんです！」
「ダメだったらダメだ。」
「お願いします。実際にその素材を見てください。触れてください！お願いします！」
女性は棟梁と呼ぶ年配の貫禄のある男性に深々と頭を下げている。
「ダメだ」
「棟梁が見てくださるまで帰りません。私。」
「勝手にしろ！」

建築デザイナーとは響きがいい。
でもこの女性の仕事は少しその名前が似つかわしくない内容の仕事だった。

この女性は木ノ内紗那。
業界では超がつく売れっ子の建築デザイナーだ。まだ34歳にしてかなりたくさんの店舗建築を手がけてきた。どの店舗も営業成績がかなり伸びていて彼女のデザインを待っている経営者が後を絶たない。

しかし彼女の仕事はただのデスクワークではない。デザインしたものを実際に形にするためには現場での職人相手に交渉したり、より良い完成となるように何度も改善が必要な仕事だった。もちろん予算に合わせた完成も紗那の仕事だ。