オオカミ様VS王子様 ~私を賭けたラブゲーム~
「蓮人くん。」

先生は涙を拭って、棚の引き出しから何かを

取り出した。

「これ、もしよかったら持っていてくれな

い?」

先生の小さな手にはシルバーのペアリング。

「みやびと誠二の結婚指輪。二人のご家族か

ら形見として頂いたの。二人はいつも言って

いたわ。これで二人はいつも一緒だって。」

その指輪を受け取った瞬間、懐かしい記憶が

蘇ってきた。

「これで二人はいつも一緒だね。」

母さんの腕の中で聞いた言葉だ…。

「先生…その言葉…思い出した…。」

「えっ?」

母さんがそう言うと、父さんは決まった言葉

を返していたんだ。

「母さんの言葉の後には、『これからは三人

だな。』って…いつも父さんが言ってまし

た…。」

二人の…いや、家族の合言葉だったんだ…。

オレ…こんな幸せな思い出、ずっと忘れてい

たんだ…。

「そう…。そうよね。いつも蓮人くんのこと

楽しそうに話してくれていたもの。あなたは

二人にとっても愛されていたのよ。」

いつもの優しい笑顔で告げられた先生の言葉

で、止まっていた涙が溢れ出す。

先生はオレを抱きしめて、子供をあやすよう

に背中を撫でてくれる。

合言葉だけ。二人のその言葉しか思い出せな

いけれど、その一瞬に全部が詰まってるよう

な気がした。

「先生…。」

「うん?」

「母さんの指輪は、先生が持っていてくれま

せんか?」
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