上司の過去と部下の秘密〜隠れ御曹司は本気の恋を逃さない〜
定時後の秘密
「ふわあぁぁぁ〜」

キーボードをタッチする音と、コピー機の機械音、電話に応答する社員の声……
昼過ぎのオフィス内の雑音に混ざって響く、なんとも気の抜けたため息。いや、あくびだな。
ため息なら許せる。むしろ、内容によっては同情する。
でも、あくびって……

おもわず、気の抜けた音の発信源である、隣のお誕生日席の男を睨む。

三上涼介、30歳。私の上司だ。
おっさんと呼ぶにはまだかわいそうな年齢だけど、あの気の抜けたあくびは、くたびれたおっさんそのもの。これで見た目がアレだったら、間違いなくあだなは〝おっさん〟とつけられていたはず。

だけどこの男、見た目だけはいい。
軽くパーマをかけたダークブラウンの髪。滅多にお目にかかれないが、極たまに意志の強そうな光の宿る切れ長の目。すっと筋の通った鼻。おまけに、身長はおそらく180cm以上あるだろう。153cmしかない私は、見上げて話すことになる。
あっ、違うか。見上げることは滅多にない。だってこの人、いつもどかっと椅子に座ってるから。立っているのは部下だけ。まあ、話を聞く時ぐらいは背筋を伸ばしてるみたいだけど。


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