初めての to be continued…
7. 芳子
「あれ、雄大だったんだ……」
「思い出してくれました?」
「その事は覚えてたけど、あの1年生が雄大だったとは……ごめん、覚えてなかったよ」
「いいですよ。そうだと思ってたんで」
私が食器を洗い雄大が拭きながら、雄大と私が初めて会った時の話を聞いた。

驚いた。あんな、なんでもないようなことがきっかけだったなんて。

「あの時は、岡部先生に頼まれたのもあったけど、嶋田が結構強引だったからね。可哀想になっちゃって」
「助かりましたよ、ほんとに」
「でも結局入ったんだもんね、あのバスケサークル」
「最初はやる気なかったんですけど。理由が理由でしたからね。でも嶋田先輩がいい人だったんで、悪いなって思って、練習はちゃんとしてましたよ」
「嶋田、最近会ってないけど元気かな」
「3ヶ月前にフラれたそうです」
「えっ」
「やけ酒付き合わされました」
「なんだ、呼んでくれれば私も付き合ったのに」
「ダメです。焼け木杭に火が付いても困るんで」
「付かないよ、今更」
「……そんなのわかりませんから」
雄大がちょっと不機嫌そうに、冷蔵庫を開ける。

嶋田は、3年の終わり頃、私に告白してきた。
私は、どうしても嶋田のことは友達としか思えなくて、それを伝えたら、3ヶ月冷却期間を置いて、友達に戻ってくれたのだった。
雄大はその事を知っている。冷却期間中に、酔っ払った私が『このまま友達なくしちゃうのかな』と愚痴をこぼしたらしいのだ。

「芳子さんが持ってきてくれた梅酒、開けていいですか?」
「もちろんいいけど……」
「嶋田先輩は、焦ったんだそうです」
梅酒の瓶とコップを2つ持って、雄大はテーブルに戻った。手を拭きながら、私もそれに続く。
「焦ったって?」
雄大が、梅酒を注いだコップを私の前に置いて、自分のにも注ぐ。
やっぱりちょっと不機嫌だ。
「芳子さんは、人当たりはいいけどかなりの人見知りだから、本当に心を許してる人は少ない。その少ない中に自分も入ってる。って、先輩は思ってたそうですけど」
「うん……合ってる」
「恋愛事に鈍感なのはわかってたから、時間をかけて近付こうって思ってたんだそうです」

知らなかった。あの頃の嶋田はそんな事を思ってたんだ。

「そこに俺が現れて、どんどん芳子さんと仲良くなっていくし、俺は気持ちを隠さなくなるし、そうすると周りも認める感じになってくるし。で、焦って言ってしまった」

その頃、私はそんな事全然知らずに、就職のこととか考えてた気がする……。

自分の知らないところで起こっていたことを想像したら、恥ずかしくなってきて、同時に気付かなかった申し訳なさもこみ上げてきた。
「なんか……すみません」
「なに謝ってんですか。別に芳子さんが悪い訳じゃないですから」
雄大は梅酒を一口飲んで『これ美味い』と言った。

私は、告白された時の嶋田の顔や、断った後の気まずい顔、友達に戻ると言ってくれた時の顔を思い出して、改めて嶋田に対して申し訳なく思っていた。
私達が友達に戻ってから半年後、嶋田はサークルの後輩と付き合い始めた。長くは続かず、2ヶ月で別れた。
口は悪いけど面倒見のいい嶋田は、その後も後輩から慕われることもあったけど、何故か長続きしない。いいヤツだと思うんだけど。



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