初めての to be continued…
8. 雄大
「あれ、雄大だったんだ……」
「思い出してくれました?」

 大した出来事じゃない。
 俺にとっては始まりだったけど。

「その事は覚えてたけど、あの1年生が雄大だったとは……ごめん、覚えてなかったよ」
「いいですよ。そうだと思ってたんで」
「あの時は、岡部先生に頼まれたのもあったけど、嶋田が結構強引だったからね。可哀想になっちゃって」
「助かりましたよ、ほんとに」
「でも結局入ったんだもんね、あのバスケサークル」
「最初はやる気なかったんですけど。理由が理由でしたからね。でも嶋田先輩がいい人だったんで、悪いなって思って、練習はちゃんとしてましたよ」
 嶋田先輩は、口は悪いけどいい人で、サークルだけじゃなく、授業のことや、街のことを色々と教えてくれた。おかげで、俺は思ったよりも早く大学生活になじむことができた。
 ただ一つだけ、先輩と俺が相容れなかったことがあった。

「嶋田、最近会ってないけど元気かな」
「3ヶ月前にフラれたそうです」
「えっ」
「やけ酒付き合わされました」
「なんだ、呼んでくれれば私も付き合ったのに」
「ダメです。焼け木杭に火が付いても困るんで」
「付かないよ、今更」
「……そんなのわかりませんから」
 油断はできない。

 嶋田先輩は、芳子さんのことが好きだった。
 今も、かもしれない。
 芳子さんは完全に友達だと思っているみたいだが、嶋田先輩は多分違う。

「芳子さんが持ってきてくれた梅酒、開けていいですか?」
 思っていたことが顔に出ていたらしい。
 芳子さんが、訝しげに俺を見る。
「もちろんいいけど……」
 その視線をごまかしたくて、酒の用意をする。
 そして、自分の中に湧いてきた嫉妬心もごまかしたくて、話し始めた。
「嶋田先輩は、焦ったんだそうです」

 先輩は芳子さんにフラれて、友達に戻るための冷却期間を置いた。
 大切な友達でもあったから、そのまま疎遠にはなりたくなかった、と、その期間中に飲みに呼ばれて聞いた話だ。

「焦ったって?」
「芳子さんは、人当たりはいいけどかなりの人見知りだから、本当に心を許してる人は少ない。その少ない中に自分も入ってる。って、先輩は思ってたそうですけど」
「うん……合ってる」

 そうだ。嶋田先輩は、芳子さんのすぐ近くにいたんだ。

「恋愛事に鈍感なのはわかってたから、時間をかけて近付こうって思ってたんだそうです。そこに俺が現れて、どんどん芳子さんと仲良くなっていくし、俺は気持ちを隠さなくなるし、そうすると周りも認める感じになってくるし。で、焦って言ってしまった」

 方法を間違えなければ、芳子さんの隣にいたのは先輩かもしれなかった。
 間違えさせたのは、俺の存在だ。

「なんか……すみません」
「なに謝ってんですか。別に芳子さんが悪い訳じゃないですから」

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