初めての to be continued…
 そう。これは俺と嶋田先輩のことだから。
『お前がいなかったら』
 3ヵ月前、先輩が半年付き合った彼女にフラれて、呼び出されて。
 酔っ払った先輩に言われた。
『お前がいなかったら、坂下と付き合えてたかもしんないけどさ、でも結局なんも言えなかったかもって思うんだ。あいつ、ほんっと鈍感だからさ、なんも気付かねえで無邪気にしてるし。でも、言わなかったら後悔してたと思うから、お前には感謝してんだぞ』
 そう言ってくれた。
 そして。
『だからな、早く告れ。手に入れろ。そんで、泣かすなよ。あいつが泣いたら、俺がかっさらいに行くからな』
 そう言って、嶋田先輩はつぶれた。
 多分、本気で言ってた。

 だから、俺は芳子さんを離したりしない。
 
「嶋田先輩が誰と付き合っても長続きしないのは、先輩から好きになった人じゃないからですよ、多分」
「言われて付き合ってるからってこと?」
「そうです。好きになれるかなって思いながら付き合ってるから、あやふやな態度になって、相手も先輩を信じられなくなって、フラれちゃうんですよ」

 それもそうだけど、本当は、芳子さん以上に好きになれる人に出会えてないんだ、と俺は思っている。

「そっか……」

 あ、芳子さんのこの表情はマズい。
 様子を窺いに電話とかしそうだ。

「って、先輩には言っときましたから。芳子さんは心配しなくて大丈夫です」

 これは本当のこと。俺に言われた先輩は、うなりながら飲んでいて、最終的にはつぶれてしまったのだ。

「あれ……そう?」
「そうです。だから、連絡とかしないであげてくださいね。多分、芳子さんから連絡行ったら、へこむと思います」

 これも本当。今の状況を作った張本人が、それに気付かずなぐさめたら、そりゃあへこむだろう。

「え、そう、かな」
「そうですよ。そっとしといてあげてください。今頃は多分立ち直ってるはずなんで」
「はい……」
 芳子さんは素直に頷く。
 でも、いろいろ考えているのがわかる。

 嶋田先輩は、芳子さんにとって大事な友達だ。それは知ってる。
 そして、俺は『特別』らしいのだが、今は全然そんな気がしない。芳子さんが、嶋田先輩のことを考えているからだ。
 単純に嫉妬する。
 いつもなら芳子さんには隠してる感情だけど、制御できなくて、顔に素直に出ているのが、自分でもわかった。

「飲むでしょ?」
 芳子さんが、気をつかってくれている。
 わかってるけど、抑えられない。
「……どうかしたの?」
 情けなくて、自分が嫌になる。でも、そんなことは言えない。
「あー……いや、なんでもないです」

 器が小さ過ぎる。
 勝手に嫉妬して、すねて。まるで子どもだ。

 こんなことはしないようにしてたのに。
 年下だから。どう頑張っても、それは変えられないから、せめて感じさせないようにしてたのに。

 芳子さんが『好き』って言ってくれて、キスもして、浮かれてしまって感情が制御できない。
 だから、マイナスの感情もあふれ出てくる。

< 22 / 33 >

この作品をシェア

pagetop