初めての to be continued…
 そんなことを悟られたくなくて、俺はうつむいていた。
 芳子さんも、うつむいて黙っていたけど、不意に顔を上げた。
「雄大、あの、ごめんね。嶋田の話は置いとこう」
「えっ……」
思ってもいなかったことを聞いて、芳子さんの顔を見る。
「あの、せっかく、ふ、ふたりで、いるんだから……嶋田の話じゃなくてもいいかなって……」
 言いながら恥ずかしくなってきたのか、段々とうつむいてしまう。

 しまった。
 自分のことばかりに気がいって、芳子さんのことを全然気遣えてなかった。
 
「……すいません」
 芳子さんがいろいろ考えているのは、顔を見てわかっていたのに。
 自分が情けなさ過ぎて、声も出ない。

「すいません……芳子さんに言わせてしまって……」

 でも、なにか言わないと、ますます芳子さんが困ってしまうから。

「あの、俺、さっきから、ちょっと感情の抑えが効かなくて、芳子さんと嶋田先輩は友達で、なにもないってわかってるのに勝手に嫉妬して、なにやってんだって思ったら情けなくなってきちゃって」

 ああ、俺はなにを言ってるんだろう。
 感情どころか、口まで制御できない。

「俺は年下だし、今まで頑張って対等になろうとして大人っぽくしてきたけど、やっぱりまだ大人にはなりきれなくて」

 ダメだ。
 もう自分がなにを言ってるのかわからない。
 頭に血が上ってきた。
 このままだと、芳子さんを傷付けてしまう。
 大切にしたいのに。

「今日はもう舞い上がっちゃって、俺、なにするかわかんないから、芳子さんはもう帰った方がいいんじゃないかって」
「えっ⁈」
 芳子さんが、バッと顔を上げた。

 俺は顔を上げられない。
 今、目を合わせたら、なにをしてしまうかわからない。

「あの、送っていきますから……」

 一緒にいたい。
 でもダメだ。
 でも本当は。

「だから、今日は……っ⁈」

 ふわっと、首に巻き付いた。
 最初はなんだかわからなかった。
 芳子さんが抱き付いてきたんだと気付いたのは、背中に座椅子が付いた時だった。

「ほ、芳子さん……?」

 驚き過ぎて、思考が停止する。

「私も」
「え……?」
「私も、一緒にいたい」
「え……あの、俺は、送っていきますからって」
「ほんとは、一緒にいたいでしょう?」

 同じことを、思ってた。
 同じ瞬間に。

「……私も、一緒にいたい」

 抱きしめる。
 同じ思いを伝えたくて。

 そうしてると、段々自分が落ち着いてきたのがわかった。
 芳子さんは、いつもいい匂いがする。今日は距離が近いから、ずっと感じていた。きっとこれのおかげだ。

 落ち着くと、芳子さんの胸が凄い速さで脈打ってるのがわかる。
 そうだった。この人は、なにもかも初めてなんだ。
 きっと恥ずかしいんだろう。俺の肩に顔を埋めて。

< 23 / 33 >

この作品をシェア

pagetop