初めての to be continued…
3. 芳子
「芳子さん、座椅子使っていいですよ」
なんとなく、持ち主を差し置いて座椅子を使うのに抵抗を感じて、座椅子の席に雄大の茶碗と箸を並べたら、そう言われた。
「うん、でも、雄大はいつもここに座ってるんでしょう?」
振り返って見ると、窓を背にした雄大は、窓枠も手伝って、まるでポートレートみたいだ。やたらとカッコよく見える。
「そうですけど、芳子さんは一応お客様だし」
ドクン、とまた胸が騒ぎ出した。
もうどうしたらいいのかわからなくて、とにかく目をそらす。
「んー……」
座椅子の上に座布団が乗っているのが目に入る。
なんだ、座布団あるんじゃない。座ってたのに気付かなかった。
「じゃあ、これ借りる」
座布団を敷いて座った。
「これでどう?なんとなく公平でしょ?」
座る場所が決まったからか、ホッとして雄大を振り向く。
「あ、そ、そうですね。あっ、俺ビールあっちに置いてたんだった。取ってきます……」
雄大がキッチンに行く。
部屋とキッチンはガラスの格子戸で仕切られている。すりガラスなので、影が見える。
気付かれないように、ほうっと、息をついた。
こんな風に、2人っきりでいるのは初めてだ。
大学で、同じ教授のゼミで出会ってから、もう5年になる。会う時は大抵誰かが一緒にいたし、ゼミ室で2人になる時もあったけど、なにか作業をしていたから、意識することなんてなかった。
……少なくとも、私は。
雄大は意識しまくりだった、と教えてくれたのは、八重ちゃんの弟で雄大の親友でもある本間圭介(ほんまけいすけ)君だ。
圭介君によると、雄大は最初から私のことが好きだったそうだ。
詳しくは本人から聞いて、と教えてくれなかったけれど、同じゼミで圭介君と初めて会った時には、既に私を好きだったらしい。
どこで会ったのか、私は覚えていなかった。
雄大とは、ゼミ室で初めて会ったんだとばかり思っていた。
教授に頼まれて、図書館から資料本を探して届けに来た時にゼミ室にいたのが雄大だった。
背が高い人だな、と思った。
しどろもどろになりながら、教授が別の教授に呼ばれて出ていったことを教えてくれた。
初対面の、一応先輩相手だから緊張しているんだと思っていたけれど、違ったらしい。
資料本を預けて私がゼミ室を出た後に、大興奮の雄大から電話がかかってきた、と圭介君は言っていた。
一体どこで会ってたんだろう。
ビールとミネラルウォーターを持ってきた雄大が座った。
「食べましょうか」
「そうだね。じゃ、改めて」
2人で缶を持って、乾杯する。
「お疲れ様でした」
2人の声が、重なった。
そんなことにも、胸が苦しくなってしまう。
雄大は、そんな私に気付かずに、ゴクゴクっと美味しそうにビールを飲んだ。その後、同じくらい水も飲む。
「今日は自分ちにいるんだし、好きなだけ飲んでいいんだよ?私のことは気にしないで」
雄大が私と飲む時は、いつもお酒と水を交互に飲む。お酒は強い方だけど、私の面倒を見るので酔わないようにそうするのだと聞いた。
「いや、今日は、酔うとちょっと……」
「明日、なにかあるの?」
「そうじゃないですけど」
「じゃあいいじゃない」
「いや、あの……」
「雄大が酔ったとこ、見たことないし」
「俺も大体芳子さんと一緒ですよ。ふにゃふにゃぐてん、て、圭介が言ってました」
「なにそれ。私、ふにゃふにゃぐてん、なの?」
「そうですよ。知りませんでしたか?」
「……一応、大人の飲み方だって知ってるんだから」
「あはは、そんなの見たことない」
雄大が笑った。
良かった。なんだかずっとしかめっ面だったから、私がなにかしてしまったのかと思った。
それからは、いつものように、2人で食べて飲んで話した。
なんとなく、持ち主を差し置いて座椅子を使うのに抵抗を感じて、座椅子の席に雄大の茶碗と箸を並べたら、そう言われた。
「うん、でも、雄大はいつもここに座ってるんでしょう?」
振り返って見ると、窓を背にした雄大は、窓枠も手伝って、まるでポートレートみたいだ。やたらとカッコよく見える。
「そうですけど、芳子さんは一応お客様だし」
ドクン、とまた胸が騒ぎ出した。
もうどうしたらいいのかわからなくて、とにかく目をそらす。
「んー……」
座椅子の上に座布団が乗っているのが目に入る。
なんだ、座布団あるんじゃない。座ってたのに気付かなかった。
「じゃあ、これ借りる」
座布団を敷いて座った。
「これでどう?なんとなく公平でしょ?」
座る場所が決まったからか、ホッとして雄大を振り向く。
「あ、そ、そうですね。あっ、俺ビールあっちに置いてたんだった。取ってきます……」
雄大がキッチンに行く。
部屋とキッチンはガラスの格子戸で仕切られている。すりガラスなので、影が見える。
気付かれないように、ほうっと、息をついた。
こんな風に、2人っきりでいるのは初めてだ。
大学で、同じ教授のゼミで出会ってから、もう5年になる。会う時は大抵誰かが一緒にいたし、ゼミ室で2人になる時もあったけど、なにか作業をしていたから、意識することなんてなかった。
……少なくとも、私は。
雄大は意識しまくりだった、と教えてくれたのは、八重ちゃんの弟で雄大の親友でもある本間圭介(ほんまけいすけ)君だ。
圭介君によると、雄大は最初から私のことが好きだったそうだ。
詳しくは本人から聞いて、と教えてくれなかったけれど、同じゼミで圭介君と初めて会った時には、既に私を好きだったらしい。
どこで会ったのか、私は覚えていなかった。
雄大とは、ゼミ室で初めて会ったんだとばかり思っていた。
教授に頼まれて、図書館から資料本を探して届けに来た時にゼミ室にいたのが雄大だった。
背が高い人だな、と思った。
しどろもどろになりながら、教授が別の教授に呼ばれて出ていったことを教えてくれた。
初対面の、一応先輩相手だから緊張しているんだと思っていたけれど、違ったらしい。
資料本を預けて私がゼミ室を出た後に、大興奮の雄大から電話がかかってきた、と圭介君は言っていた。
一体どこで会ってたんだろう。
ビールとミネラルウォーターを持ってきた雄大が座った。
「食べましょうか」
「そうだね。じゃ、改めて」
2人で缶を持って、乾杯する。
「お疲れ様でした」
2人の声が、重なった。
そんなことにも、胸が苦しくなってしまう。
雄大は、そんな私に気付かずに、ゴクゴクっと美味しそうにビールを飲んだ。その後、同じくらい水も飲む。
「今日は自分ちにいるんだし、好きなだけ飲んでいいんだよ?私のことは気にしないで」
雄大が私と飲む時は、いつもお酒と水を交互に飲む。お酒は強い方だけど、私の面倒を見るので酔わないようにそうするのだと聞いた。
「いや、今日は、酔うとちょっと……」
「明日、なにかあるの?」
「そうじゃないですけど」
「じゃあいいじゃない」
「いや、あの……」
「雄大が酔ったとこ、見たことないし」
「俺も大体芳子さんと一緒ですよ。ふにゃふにゃぐてん、て、圭介が言ってました」
「なにそれ。私、ふにゃふにゃぐてん、なの?」
「そうですよ。知りませんでしたか?」
「……一応、大人の飲み方だって知ってるんだから」
「あはは、そんなの見たことない」
雄大が笑った。
良かった。なんだかずっとしかめっ面だったから、私がなにかしてしまったのかと思った。
それからは、いつものように、2人で食べて飲んで話した。