エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
「あはっ、もちろんです。あのっ……散々お世話になっておいて、黙って退職して申し訳あ――」
「波多野のせいじゃないだろ? 謝らなくていい」
私の言葉を遮る彼は、眉をひそめて首を横に振る。
宏希さんからいろいろ聞いているようだ。
「子供……いるんだって? 浅海の子なんだろ?」
彼は昔から、なんでもズバッと切り込んでくる人だった。
それが営業力の高さにつながってはいるものの、こういうときは困る。
「いえ。違い、ます」
「そっか」
嘘をつくのはつらい。
でも、宏希さんの記憶が戻らずこの先どうなるかもわからない今、簡単にそうですとは口にできない。
複雑な事情を察したのか、それ以上の追及はなかった。
「けど、またこうして会えるなんてうれしいよ。あの事故のあと、浅海も記憶がすっぽり抜け落ちていることに相当落ち込んで……。でも、波多野のメールがあったから、歯を食いしばって耐えたんだ」