エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
宏希さんは、自身が手がけてきた仕事やクライアントの記憶もすべて失っていたのだろう。
コツコツ積み上げてきたものが一瞬でなくなり、またいちからの出発だったのかも。
そこから取締役に這い上がるとは、彼の努力のすさまじさを容易に想像できる。
「そうでしたか」
「それで、『俺、彼女のこと相当好きだったんだろうな』って恥ずかしげもなくつぶやくから、腹が立つくらいのろけてたって言ってやった」
「そんな……」
ふたりでどんな話をしていたのだろう。
照れくささのあまり耳が熱くなるのを感じる。
「波多野を思い出せないこと、本当に苦しんでいるんだ。だから許してやって」
「もちろんです。わかってます」
沖さんは、とても素敵な親友だと思う。
きっと私が去ったあとも、苦しむ宏希さんの支えになっていたはずだ。