エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~

まさに体がいくつあっても足りない状態で、しかもなにがあっても自分の責任ですべて決断しなければならず、本当は心が悲鳴をあげていた。

そんなときに差し出された救いの手が、どれほど温かかったか。


「どうしてだろうな。忍の記憶がすっかり抜けていたのに、沖の話を聞いたり、ここにある忍の私物を見ていたりしたら、息が苦しくなって。どうしても捜し出して会わなくてはと強く思った。俺のここが、忍を強く求めていたんだろうな」


彼は自分の胸をトンと叩いて、苦しげな顔をする。


「私……宏希さんの記憶の中に私がいないとわかったとき、正直涙が枯れ果てるまで泣きました。でも、お腹に宿った命はどうしてもあきらめられなかった。宏希さんとの赤ちゃんだけはどうしても……」

「あぁ」


彼は神妙な面持ちで小さく二度うなずく。


「だけど、子育ては簡単じゃなかった。誰にも頼れず、孤独だった……」


ダメだ。
泣くまいと思っていたのに、勝手に涙があふれてくる。

それを見た彼は、大きな手で優しく拭ってくれる。
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