エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
お父さまは自分の言いたいことだけまくし立て、あっという間に帰っていった。
テーブルに置かれたコーヒーからはまだ湯気が立ち上っている。
結局、なにひとつとして反論できなかった。
私の頭の中はお腹に宿った命を守ることでいっぱいで、他のことを考えられなくなっていた。
「ひとりで……」
産んで育てる?
退職を迫られて、収入もなくなる。それなのに育てられる?
でも、宏希さんが体を張って守ってくれたこの命を殺せる?
そんなことを考えていると胸が痛くて瞳が潤んでくる。
強くならなければ。この子を守れるのは私しかいない。
自分の気持ちを鼓舞するもうまくいかなくて、頬に涙が伝った。
一生を共にすると誓った愛する人を突然失った苦しみは、耐えがたいものだった。
翌日、私は長いメールをしたためた。
それは宏希さんに向けたものではあったが、内容はすべて仕事の引き継ぎだ。
もしここ数年の記憶がないのなら、彼の頭の中にあったはずのデータが必要だろうと思ったからだ。