エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
「あぁ。お相手も、俺が記憶を失っていると知って尻込みしたみたいだ。まあ、脳にダメージを受けたから、この先どうなるかわからないとは吹き込んだけど」
なるほど。あちらから断るように仕向けたということか。
「策士、ですね」
仕事ではそうだった。
緻密な計算をして、相手が反論できる隙を潰してから行動に移す。
それが彼の成功の秘訣だった。
でも、私の前では違った。なんの計算もなく、楽しいときには大きな口を開けて笑い、悔しいときには顔をしかめて肩を落とした。
そして……いつも私に愛をささやいた。
「仕事ならどれだけでも冷静になれる」
「仕事?」
「そう。あの結婚話は仕事だろ? 結婚するなら、気持ちが止められなくなるほど本気で愛した人としたい」
彼は私に真摯な視線を注ぐ。
その視線があまりに強くて思わずそらした。
「波多野さん、俺ともう一度始めてくれないか」
思いがけない提案に目を瞠る。