エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~

「あぁ。お相手も、俺が記憶を失っていると知って尻込みしたみたいだ。まあ、脳にダメージを受けたから、この先どうなるかわからないとは吹き込んだけど」


なるほど。あちらから断るように仕向けたということか。


「策士、ですね」


仕事ではそうだった。
緻密な計算をして、相手が反論できる隙を潰してから行動に移す。

それが彼の成功の秘訣だった。


でも、私の前では違った。なんの計算もなく、楽しいときには大きな口を開けて笑い、悔しいときには顔をしかめて肩を落とした。

そして……いつも私に愛をささやいた。


「仕事ならどれだけでも冷静になれる」

「仕事?」

「そう。あの結婚話は仕事だろ? 結婚するなら、気持ちが止められなくなるほど本気で愛した人としたい」


彼は私に真摯な視線を注ぐ。
その視線があまりに強くて思わずそらした。


「波多野さん、俺ともう一度始めてくれないか」


思いがけない提案に目を瞠る。
< 84 / 314 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop