エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
「ここを出ていくときに、お父さまからいただいたものです。でもお返しします」
一旦は和宏のために使おうと思ったが、どうしても手を付けられなかった。
和宏の体調不良で仕事を休まざるを得ず、給料が少なくて大変だったときもどうしても。
これを使うということは、それまでの宏希さんとの関係を汚すような気がしたからだ。
私の言葉にハッとした様子の彼は、すぐさま封を開けている。
そして出てきた札束に大きなため息をついた。
「父が、申し訳ないことをした」
「いえっ、謝ってほしいわけじゃないんです」
これが手切れ金だと気づいた彼が、悲痛の面持ちなので焦る。
「いや、どれだけ波多野さんにつらい思いをさせたんだろうね、俺は」
「違いますよ。つらかったのは浅海さんです」
彼と再会するまでは自分ばかりが大変な思いをしていると勘違いしていた。
けれど、記憶を失って一番苦しかったのは宏希さんだ。