勇者の子は沈黙したい
「お前が、勇者の息子なんだろ!」

なんだ、この目の前にいるガキは?
と、レオ・アルバートは目を細めた。
自分の前に、まだ親離れもできてないようなガキが喚いていた。
いかにもチャラそうな茶髪に、緑色の大きな瞳。
顔は整っているが、チビ。
まだガキが、なぜ俺の隠れ場所にいる。
こんな不快な気分あったもんじゃない、とレオは内心吐き捨てた。

「何か言えよ、おい!お前がレオ・アルバートだろ!偉大なる勇者ラスカー・アルバートの息子なんだろ!」
「人違いだ」
「うそだ!!!」

小さな男は目を吊り上げて叫んだ。

「俺は聞いたんだ、街の人に!この街の森の奥にでっかい屋敷があって、そこには勇者の息子が住んでるって!俺はそれを信じてここに来た。そしたらお前がいた。つまり…お前が勇者の息子ってことだ!」
「人違いな上に不法侵入だ」

そもそも、とレオ・アルバートは上を向きながら言葉を続けた。

「そこは屋敷の塀だ。塀の上に立つなガキ」

深い緑の森に佇むのは、バロック建築を彷彿とさせる壮大な屋敷だった。
そして、白を基調としたその建物を囲むのは高い高い塀。到底小さな子供が登れるような高さではない。

「靴で家を汚すな」
「俺はガキでもチビでもない!ゼインという名前がある!」 
「そうか。ゼイン、消えてくれ」
「お前は勇者なんだろう!!」

ゼインは短い足を肩幅に広げ、塀の上で踏ん張った。
彼の目は真剣に、レオ・アルバートを捉えていた。

「勇者はすごいんだ…俺の憧れなんだ。俺は勇者になりたいんだ」
「そうか。なればいい」
「だから…俺をお前の弟子にしてくれ!!」
「お前さ、俺の声届いてる?」

そうして、レオ・アルバートはゼインという少年に出会ったのだ。

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