リペイントオレンジ🍊
わざわざ菅野さんが、酔っ払いの私なんかに手を出すわけがないって言うか……。

「ないです……」


私の返事に、分かりやすく残念そうな海穂さんを見て、堀さんが笑う。


「でも、尊がこんなにも一人の子を気にかけてるのは初めて見る」

「やっぱり堀さんもそう思う!?」

「……あぁ。本当は尊から聞くのが1番良いんだろうけど、あいつは自分を閉じ込める癖がある。待ってたらいつになるか……それこそ、今のままじゃ、死ぬまで1人で生きていくつもりなのかもしれない」


クイッとお酒をあおった堀さんが、ゆっくりと私に視線を向けた。


「菅野 尊の過去。……海穂、尾崎ちゃんになら話してもいいかもしれねぇな」

「うん、私は大賛成」

「菅野 尊の……過去?」


"大賛成"と言いながら、少しだけ哀しそうに細められた海穂さんの瞳。


「尾崎ちゃん、聞く覚悟はあるかい?」

「……っ、」


知りたいと思う気持ちと、
知るのが怖いと思う気持ち、
菅野さんの口以外から聞くことへの抵抗。


色んな感情に押しつぶされそうになって、私は手元のお酒をグイッとあおった。


最後に残ったのは、


「……菅野さんのことちゃんと知りたいです」


菅野さんが好きって気持ちと、だからこそ、知りたいって気持ち。
< 104 / 133 >

この作品をシェア

pagetop