リペイントオレンジ🍊
「菅野 聡子。小学校の先生をしていた。……俺の、母親だ」

「……っ、」

「14年前。俺の幼なじみを助けるために火の海に飛び込んで、死んだ」

「……や、だ!!聞きたくない!!」

「遺品整理のとき、母さんの部屋に大事に取ってあった手紙を、俺はなぜか捨てることが出来なかった。……母さんは、自分の生徒を本当に大事にしてたから」

「……うぅ〜……っ、ふ、ぅ」


どんなに我慢しても、私の許可なしに漏れていく嗚咽。

私にお構い無しで続ける菅野さんの言葉に、優しくて穏やかでいつだって親身に寄り添ってくれたさとこ先生の笑顔が浮かんでは消えていく。


「手紙の差出人は大半が、"尾崎 心音"だったことを最近になってやっと思い出した。……小学校の先生として働くお前に会ったとき、ずっと何か胸の奥で引っかかってた」


そう言って、私の涙を乱暴に親指でグイッと拭うと、菅野さんは無理矢理作った顔で笑う。


「もしかしたら……って、久しぶりに手紙を見返したとき、差出人の"尾崎 心音"がお前だって確信した。……まさか、母さんの生徒だったとは、とんだ偶然だな」


自嘲気味に笑う菅野さんは、今どんな気持ちだろう?きっと、すごく辛くて、悲しくて……寂しくて、私なんかよりずっと、苦しいはずだ。
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