リペイントオレンジ🍊

「菅野さんのことだなんて、私は一言も言ってないんですけど」

「……ちっ、続けろ」

「ゴホン。では、気を取り直して。

そんな大事な人と出逢えたのも、さとこ先生のおかげです。こうして繋げてくれて、ありがとうございました」


言いながら、また涙がじわり滲んでくるのを感じて、慌ててギュッと目を閉じる。


「でも、今日で最後なんです。

1人だと絶対無理するし、辛くても言わないし……まぁ、私がいたところで言わないから一緒なんですけど。

ご両親で、どうかこれまで以上に見守ってあげてください」


って、お前は誰だって話か。

菅野さんのことは、私から頼まなくてもちゃんと見守ってくれてるに決まってるのに。


「……い、以上です」

「言いたいことは全部言えたか?」

「あ、はい。話そうと思えば思い出話とか、まだまだネタはあるんですけど。今日はこれくらいにして、また後日ゆっくり」


そう言った私に、菅野さんは立ち上がる。

"じゃあ、帰るか"なんて言葉が、今更になって胸に突き刺さる。

自分で今日が最後だと言ったくせに、もうすぐ菅野さんとの時間が終わってしまうのかと思うと、胸がギシギシと軋んで音を立てるような気がした。
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