リペイントオレンジ🍊

楽しかったとか、幸せだったとか、そんな綺麗事だけ並べて、素敵な思い出に出来たらどんなにいいだろう。


"菅野さんが好き"


この気持ちを、いつか思い出と呼ぶ日が来るのだとしたら、そのとき私はどんな毎日を過ごしているんだろう。


「菅野さん今まで、───!?」


菅野さんに続いて立ち上がった私が、改めてお礼を伝えようと口を開いたとき。

クルッと私を振り返った菅野さんの手が、私の腕を強引に、だけど優しく引き寄せた。


「……あ、あの、菅野さん……?」

「ん?」

「ん?……じゃ、なくて」

「うん」

「うんって……」


菅野さんは分かっていない。

こんな簡単に、自分に惚れている女を抱き寄せる罪深さを。

優しく私を包み込む腕に、今だってこんなにドキドキしているし、あわよくばと期待してしまうのに。


「最後なんだろ」

「最後なのに、こんなの酷です」

「……俺もそう思う」

「……なんなんですか、ほんと」


最後まで、菅野さんの気持ちは読めないし。
どこまでも掴めなくて、近づけなくて、近づきたくて、


ほんと、好きでした。
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