リペイントオレンジ🍊


「好き……でした」

「それは……聞かなかったことにする」

「最後まで私の気持ちは知らんぷりですか、せめて最後にちゃんと振って下さいよ」


不思議と、涙は出ない。
最後なのに、菅野さんの腕の中が温かくて、幸せで。

ここ、お墓だし。
菅野さんのご両親に見られてるかもしれないってのに、実らぬ恋にまだ幸せを感じているなんて、情けないけれど。


泣き顔でさよならしなくて済みそうなことに、心底ホッとしている。


「それが、本当に過去形になったらまた直接言いに来い」

「……その時は、菅野さんが泣き崩れるくらいいい女になって、菅野さんよりハイスペックな彼氏と会いに行きますから」


"覚悟しててください"なんて続けて小さく笑えば、菅野さんもフッと笑う。


「……頑張る」

「え?頑張るって、何をですか?」


どことなく噛み合っていない菅野さんの返事に首をかしげれば、


菅野さんの大きな手が私の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「わ〜!もう、菅野さんっ」

「じゃーな、しんおん」


あぁ、本当に最後だ。
見上げた菅野さんの瞳が、少しだけ切なげに揺れるのを見て、私は静かにそう思った。

ただただ、この先も私は、あなたの無事を祈るでしょう。神様、どうかこの人に御加護を。


どんなに過酷で危険な現場でも、どうか必ず、生きて帰って。


さよなら、菅野さん。
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