リペイントオレンジ🍊
「よりによって、尾崎ちゃんが任された避難訓練の担当がアイツとはね〜」
「ほんとツイてないですよ。あんな鬼みたいな人……!もう、電話で依頼したときから最悪でした」
職員室を出て、さっさと準備に向かってしまった菅野さんの背中を見つめる。
……あぁ、今日が早いところ無事に終わりますように。
「鬼ね〜、それは言えてる。……でも、俺が言ってるのはその話じゃなくて」
「え?」
気付けば他の先生たちはみんな自分の担任するクラスへ向かってしまったらしい。職員室には擬似放送に備えて発声練習をしている教頭先生の姿しか見えない。
そんな中、私を優しく見つめる榊先生に、心臓がドンドコ暴れ出す。
「なんか、妬けるなーと思って」
「……え?」
「なーんて。さ!俺たちも急ごう。こんなところで避難訓練始まったら教頭に雷落とされる」
榊先生が動くたび、ふわっと香るユーカリの匂い。
清涼感のあるすっきりとしたその香りは、榊先生にぴったりで、普段なら私の高ぶりやすい感情を鎮めてくれる、安心する匂いなのに……。
今は、ドキドキと言葉にならない感情が胸の内側でゆらゆら波打っている。