リペイントオレンジ🍊


***


あれから、一時間くらい経った頃。


奥の個室だけが相変わらず賑やかで、男の人の声と女の人の笑い声が響いてくる。


襖で中が見えない個室の真横を通り抜け、突き当たりにあるトイレにやって来た私は、少し飲みすぎたのが頬がじんわりと熱く火照っている。


「ふぅ〜」


手を洗い、冷たくなったその手で頬を覆いながらトイレから出れば、


「……っ!?」

「…………」


同じく隣の男子トイレから出てきた人物に、思わず言葉を失くした。


相手も私に気付き、少し驚いた顔を見せてから「はぁ」と嫌そうにため息をひとつ。


って!!!
そのため息、完全に私のセリフだから。


「なんでいるんですか」


語尾にはてなマークすら付けずに投げかければ、微動だにしないまま、視線だけで私を捉えたその人は静かに口を開いた。


「……俺がどこにいようと俺の勝手だ」

「ちょ、」



だから、言い方ってもんがあるでしょ!?


愛想笑いのひとつも浮かべず、無愛想に口をへの字に結び直した、紛れもない鬼。

菅野さんは、私を残してスタスタと先に歩き出してしまった。

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