リペイントオレンジ🍊
「はい。ありがとうございました」
"おやすみ"
最後にそれだけ呟いて、榊先生は病室を出ていく。シーンと静まり返ってしまった病室に、やけに孤独を感じるのは、ここが個室だからだろう。
せめて、大部屋だったら……。
壁にかけられた時計の針だけが、チクタクと音を奏でて、1度気になりだしたら他に意識を向けることは難しい。
何か他のことを考えようにも、私の耳はチクタク音をキャッチして、永遠に時計の音を気にかけている。
人間というのはつくづく、気にしないようにしようと思っている時点で、既に気にしてしまっている生き物だ。
榊先生が部屋を出てからどれくらい経ったかな。
まだ、1分……?いや、3分くらい経ったかな。
1人じゃ、時間が長く感じる。
───ガラッ
突然開いたドアに、勢いよく振り返る。
「榊先生、忘れ物でも」
「……悪かったな、"榊先生"じゃなくて」
「……あ、えっと、」
私の視線の先には、確かに菅野さんがいる。
見慣れない私服姿の菅野さんに、こんな時だって言うのにドキドキしてる。