いつかはまともな恋が出来るのかもしれない

　白衣を着て、半年ほど切っていない黒髪を束ねる。鏡に写る自分を見ながら、看護師としての自分を作りあげ、10時間弱ほどの催眠術をかけるのだ。


「おはよー、篠崎ちゃん」

　患者の情報や自部署の1日の確認していると、寝起きの間延びした声が私の名前を呼んだ。

「おはようございます」

私の隣に立ったその人は、崎亮司という。
175センチほどの身長にダークブラウンの短髪、細く鋭い目の持ち主で、外科医師である。大体年齢は同じくらいだろう。
　昨夜から当直だったようで、頭を掻きながら横を通り過ぎ、PCに向かって行った。

「篠崎ちゃん彼氏できたー？」

PCを見ながら片手間にそんな軽口を叩かれた。
他の人間ならば軽くセクハラだが、3日に一回ほどの頻度で言われるために慣れてしまった。どうやらこれは彼にとっては挨拶らしい。

「いたらこんなボケーっとしてませんよ」

軽く返しながら、自分の業務に向かうのだ