秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 靭也はいつも優しい。
 不安を感じさせるようなそぶりはまったくない。

 でも優しくされればされるだけ、夏瑛は、靱也を失ったときの怖さを想像して、身震いしてしまうのだ。

 靭也がゆっくりこちらを振りかえった。
 なぜか、少し不機嫌そうだ。

「……綺麗な蒼」
 同じ絵の具を使っているはずなのに、なぜこんな色が出せるのだろう。

「この作品はどっかに出すの?」

「ああ、立花賞って知ってる?」

 立花賞は具象絵画を対象にした名高い賞で、毎年、個展などで注目を浴びた新人画家が候補になる。

 過去の受賞者には著名な画家が名を連ねており、俗に「絵画の芥川賞」と言われる賞だった。

「うん、もちろん」

「そろそろ挑戦してもいいかなと思って。それで立花賞を視野に入れた個展を計画してるんだ。まだ、習作の段階だけどね」
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