秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 家に帰り、風呂に入ったとき。
 靭也の残した紅の痕跡が目に入り、数時間前の記憶が鮮やかによみがえってきた。

 心臓が早鐘を打つ。

 あのとき、靭也はたしかに夏瑛のことを「おれのもの」と言った。
 その言葉を聞いたとき、眩暈(めまい)がして倒れるかと思った。
 ずっと聞きたかった言葉。

 でも、自分は本当に〝靭にいちゃんのもの〟なのだろうか。
 夏瑛は、今日こそは、靭也に部屋に来ないかと誘わるのではないかと、内心ドキドキしていた。

 けれど靭也はいつものように家の手前まで夏瑛を送り、かすめるような優しいキスをして去っていった。

 いつになったらふたりの関係は一歩前進するのだろう。
 そのことを思うと、どうしても不安が頭をもたげてくる。

 結局、靭也は自分を一人前の女性として見ていないのではないかと。
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