秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「すみませんでしたっ!」
 美岬は身体を半分に折って、靭也に詫びた。

「もういいよ。顔あげてくれないか。夏瑛のことを思ってしてくれたことなんだから」
 濡れている髪をタオルで拭きながら、靭也は言った。

 すべて誤解だったことは、靭也がシャワーを浴びている間に理恵が話してくれた。

 風間理恵は靭也と同級生で、現在は美術雑誌の編集者をしている。
 昨年、靭也を取材したのも理恵だった。

 あの記事がネットで評判になって重版がかかり、創刊以来最高の売り上げを記録したので、再度、靭也を取り上げることになり、日曜日はその打ち合わせをしていたのだそうだ。

「円山町か。それで誤解されたんだ。実はわたしの実家が井の頭線の神泉駅のすぐ近くなのよ。うちの母親、大学生のころから靭の大、大、ファンでさ。会うって話をしたら、引きずってでも連れてこい、って厳命されて。それであそこを歩いていたわけ」
理恵の説明に後ろ暗いところはまったくなかった。

「それにしても、夏瑛ちゃん、大きくなったわね。小学生のころ会ったの覚えてる?」
「はい」
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