秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 よく覚えている。
 何しろ、靭也と初めて会った日のことだ。

 あの時、靭也ともうひとりの男子学生と、それから理恵がこの叔父の家に来ていたのだった。

「でもそのときは、まさか靭と夏瑛ちゃんが付きあうなんて、夢にも思わなかった。すごいね。感心する。誰も落とせなかった男を射止めちゃうなんて」

「子どものころの夏瑛って、どんな子でした?」
 落ち着きを取り戻し、少しいつもの調子が戻ってきた美岬は、物おじせずに初対面の理恵と話しはじめた。

「そりゃもう、可愛かったわよ。手足がすらっとしてて。月並みな表現だけど、絵本から抜けだしてきた妖精みたいで。先生も目に入れても痛くないって感じだったし。ああ、そう言えば、靭も――」

 靭という言葉に聞き耳を立てていた夏瑛だったが、

 そのとき、貴子が奥から声をかけてきた。
「夏瑛ちゃん。これ、靭也くんに持っていって」と着替えを渡された。

 理恵の話の続きが気になったが、夏瑛は後ろ髪を引かれながら席を立った。
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