陰の王子様
「スズミと申します。」
異様な空気の部屋に入ったにも関わらず、堂々としている。
「どうぞ。知っていることを話してください。」
「誰だその女。」
「ロベール王国、リュークの里、トレス家に仕える者でございます。」
ロベール王国の貴族でもない家名など大臣たちは知るはずもない。
だが、その家名に目を疑ったのはクロードだ。
「10年前のあの日、私はトレス家の敷地内にある森で作業をしていました。少し高台にあったトレス家から森を下っていると、里の家から煙が上がっていました。」
「そして見たことのない服装の、明らかに里の者ではない人たちが次々に武器を振りかざしていました。」
胸元で両手を握りしめているが、まっすぐ前を向く姿は並々ならぬ決意を感じる。
「……異様な光景に怯え、身を潜めた私の前を1頭の馬が駆け上がっていきました。」