陰の王子様
「あまり、レティシアの嫌なことを思い出させたくないんだが…。」
ベッドの側にしゃがみ込み、ぽんぽんと私の頭を撫でて、意を決したように話す。
「エレン妃は第一王子の母親だということは知ってるよな?」
"第一王子"
そのワードで一気に思考が働き、これまでのことも思い出す。
「『うちの息子に従わない目障りな女を消してやりたかった。』そう言っていたらしい。」
従わない、か…。
言葉を真似したジョセフさんは、より一層悲しみが増した表情をしている。
「…実はね、レティシアがここに来たのは偶然じゃないんだ。」
「ある人に頼まれたんだ。城を出る女の子の面倒を見て欲しいって。」
「……どういうことですか?ここに来たのは…、私、馬に乗って来たんです。偶然………、え?」
「うん。レティシアが乗った馬はその人の馬。あの馬賢いし、速いから一晩で来たよ。」