1日限定両想い
コンコン、という控えめなノックに立ち上がりドアを開ける。
何時になってもいいと言ったけれど、須崎は卒業式が終わるとすぐにやってきた。
「もういいのか?」
『私はいいんですけど、皆新田先生を探してましたよ。先生こそここにいてもいいんですか?』
「あぁ。俺は須崎と話したいんだ。」
直前まで考えをめぐらせていたのに、言葉にすると随分ストレートに響いた。
須崎の表情がふっと真剣なものになって、向かい合う距離の近さに鼓動が速まる。
「これ、ずっと返しそびれたままだった。」
『あ…そういえば…。』
いつか拾った薬。
1度返したのに、また俺の手元に戻ってきたもの。
ずっと返すタイミングを掴めないまま、どうすることもできずに持ち続けていた。
「ごめんな。今更返されても困るよな。」
『いえ…大丈夫です。』
受け取った薬を手のひらに包んでぎゅっと握ると、須崎が小さな声でつぶやいた。
『今更じゃないんです。』
その言葉の意味に気付いたとき、鼓動が1度大きな音をたてた。