1日限定両想い
「そうやんな。」
『菊池先生こそ、私のこと知らないんじゃないですか。』
最初に会ったときの警戒心が解けて少しずつ明るくなる声に、なぜか俺の方が緊張していく。
俺のことを知っていてこんな風に話すって、より謎だ。
俺は確か生徒たちから陰で鬼って呼ばれているはずだ。
嫌いならそれでいいと、嫌われることに慣れすぎていた。
「まぁ、知ってはいる。」
『本当かなぁ。私目立たないから。』
「いつも竹石先生と新田が喋ってるから。」
『え…?』
須崎が箸で掴んでいた卵焼きが、ぽとっと弁当箱の中に落ちた。
まっすぐに俺の顔を見る、探るような視線が揺れている。
何か聞いているわけではない。
ただ、名前が耳に入ってきただけで。
"言えないだけだと思うんです。"
"お願いしますね。"
でも竹石先生の言葉には心配が滲んでいた。
俺はどうかと思うと言ったけれど、1人の生徒に肩入れしているのではと思う程には特別な空気を感じた。