1日限定両想い

『なんやねんぼけーっとして。』

「いえ、なんでもないです。」

『今年の盆も東京帰らんのか?』

「帰るって、生まれも育ちも大阪ですけど。」


東京、という一言に心がひりつく。

逃げるように出てきた街と、あの学校。



『去年もずっとこっちにおったやろ。向こうで友達1人もできんかったんか。』

「そうですね。わざわざ会いに行くような友達は。」

『寂しい奴やな。』


会いたい人はいる。

会いたくない人も、いる。

ひたすら忘れようとしてきた2年間だった。



『お前がなんで教師辞めてこっちに帰って来たんか、今更聞くつもりはない。』

「別に理由なんて…」

『子供らともよう向き合うてくれてる。でもある程度の年齢になると、距離を置くんはなんでや。』


心当たりのありすぎる言葉に、しばらく何も返せない。

中学生以上の子供たちが通うこの施設。

風間さんの言うある程度の年齢とは、17歳くらいから。


東京に置いてきた、あの頃の“会いたい人”の年齢。



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