1日限定両想い
『何で教師辞めたんや。』
「聞いてるやないですか。」
『いつまで経ってもそんなしみったれた顔しとったらな、そら聞くで。』
大学で東京に行ってから、こんな関西弁を話すだけで怖がられていた。
それはこの威圧感のある大柄な身体と強面のせいだが、たったひとり何の恐れも見せずに笑いかける人がいた。
「もう二度と同じことなんか起こるわけないと分かってるんですけど、念の為といいますか…」
『よう分からんけど、普段からもうちょっと柔らかい顔しといてくれななぁ。』
「それはこういう顔なんで、すいません。」
柔らかい顔と言われても、生まれ持ったこの顔は変えられない。
また思い出しかけた存在を、必死で記憶の内側に押し留める。
『お前もういくつになった。』
「もうすぐ29になります。」
『嫁さんでも貰ったら、ちょっとはその顔も柔らかくなるんとちゃうか。』
「そんなん関係ないでしょう。」
“嫁さん”などという今の俺からは遠く離れ過ぎた言葉に思わず笑ってしまう。
そんなもの、俺にはもう…。