1日限定両想い
『私は、』
一瞬言葉に詰まった間に心詠が呟いた。
『私は、菊池先生を忘れたくて青波さんと付き合ってきたわけじゃないよ。』
「心詠…。」
『ずっと菊池先生を忘れられずにいたわけでもない。』
やっぱり好きだなと思ってしまいそうになるのを必死で食い止める。
どんなときも正直で、まっさらな心詠が好きだった。
『付き合い始めてからずっと、私が好きなのは青波さんだけだった。』
「うん。分かってる。」
『でも、でもね…』
「分かってるよ。」
今菊池先生の名前を聞いて、思い出してしまった。
俺を想う気持ちよりも強く、自分が菊池先生を想っていた気持ちを。
「これ。菊池先生の電話番号と住所。」
俺が差し出した1枚の紙切れを、とても大切なもののように心詠が受け取る。
その手が、少し震えているように見えた。
「今日心詠が大阪に来ることは話してあるから。待ってると思うぞ。」
『ありがとう…。』
両手でメモを握って俯いた声に涙が滲む。
さよならは、もうすぐそこにあった。