1日限定両想い
『ありがとうございました。』
「あぁ。」
結局須崎は何も話さないまま、弁当もほとんど残して出て行った。
また来いよの一言でも言えれば良かったが、言ってしまえばなぜかもう来ないような気がしてそのまま見送った。
とぼとぼと歩く背中は何も背負えないくらいに小さくて、でも実際その背中にはとても大きなものを抱えているのだろう。
こんな不器用で無愛想な俺が教師になったのは、1人で未来を選ぶには頼りない学生たちの役に立ちたいと思ったからだ。
だけど実際現場に立ってみると、今の高校生たちは思っていた以上に大人で、自分で未来を選択する力を持っていた。
指導の仕方や本来の目的も見失った俺が辿り着いたのは、ただうるさいだけで恐れられる、理想とはかけ離れた姿だ。
須崎はそんな俺に初めて寄りかかってきた生徒だった。
だからだ。
生徒と1対1で向き合ったことがないから、女子生徒とゆっくり話したことがないから、接し方が分からなくなっているだけだ。
こんなに気持ちが揺らぐのは、ただそれだけの理由だ。