1日限定両想い
不意に、あのとき抱きしめられた感覚がよみがえって視線を外す。
大きくて、温かくて、なぜか私よりも必死だった。
私が見ている世界のすべてから遮断してくれるようなその腕の中で、確かな安心感を覚えた。
「菊池先生はそんな人じゃない…。」
『分かってるやないか。』
「ごめんなさい。」
頼られて嫌がったり、寄りかかられて迷惑がったり、菊池先生はそんなことを絶対にしない人だ。
まだ数える程度しか話したことがないけれど、そう思わせてくれるには充分な程菊池先生の優しさに触れてきた。
『なんでそんな風に思う?自分と関わったら迷惑やなんて。』
「去年から…」
介護が始まって、慣れない生活で家族や竹石先生に心配をかけた。
そのことを何の躊躇いもなく話そうとしたのに、言葉に詰まった。
思い出したら胸に引っかかるものが大きくて、言葉よりも涙が溢れそうになって。
『悪い。何も言うな。』
「ごめんなさい…」
謝らせてばかりだ。
誰よりも不器用に、だけど真正面から私と向き合ってくれているのに。