1日限定両想い
『失礼しましたー!』
職員室に戻ると、逃げるように出てきた男子生徒とぶつかりそうになった。
「おい、危ないだろ。」
『だって菊池が…菊池先生がさ!』
普段の癖なのか呼び捨てにしかけた名前をとっさに言い変えて、声を潜める。
逃げ出てきた生徒の手にはカップ麺が握られているが、当然中にお湯は入っていない。
『かーちゃんが時間ないから弁当作れなくて、これでも持ってけって持たされたんだよ。職員室でお湯貰えるかと思ったら菊池先生がアホか出てけって。』
「かーちゃん忙しいのは分かるけど、さすがに職員室でお湯は無理だろ。」
『でも先生コーヒーとか飲んでんじゃん。ポットにいっぱいお湯沸いてたけど!?』
「無理なもんは無理。購買でパンでも買ってこい。」
文句を言いながらも渋々立ち去った生徒を見送って、ようやく職員室に入った。
運の悪いことに、俺の席は菊池先生の前だ。
機嫌の悪さが1秒で分かる表情に、できるだけ存在感を消して席に座る。