知覚
グラスから出る水滴がコースターを敷いていない机を濡らしていく。
ジワジワと色が濃くなっていく机と、
溶けようとしている氷の音が二人の沈黙を更に深めている。
水面下で起こっている攻防に僕は飽き飽きしていた。
煙草を吸いながら人生について色々と話す彼女は
全てを達観している事にしようと余裕がないようだった。
「素敵ですね。
僕も参考にしてみようと思います。
ありがとうございます。」
「素敵なんてものじゃないよ。私は。
まぁ君ぐらいの歳の子には分からないか。
私と同じぐらいの歳になったら分かるよ。君も。」
そう言って肩をすくめるような仕草をした。
彼女が吐く煙草の煙がそれを一層弱々しくした。
彼女はこうまでしないと自分を保て無いんだろうか。
それは何故なんだろうか。
何が彼女をここまで'イタい'女性にしてしまったんだろうか。
僕はどうしてそう感じてしまうのだろうか。
色々な疑問が頭に浮かんだが彼女にとってはそこも問題じゃ無いんだろう。
僕には無い濃い経験をしてきたから、
色んな事が分かって達観出来ているのだろうと思うことにした。
灰皿に押し付けられる煙草。溶けきった氷。
全て出すよと言う彼女にここは格好つけさせてくださいと言う。
若いのにしっかりしてるね。
と言う彼女はまた僕と自分を見透かしているような顔をした。
店を出てホテルへ向かうまでの間、
二人はどこかやるせなさを感じていた。
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