秘密の片想い
「シー! シーだろ! 久しぶり」
突然、声をかけられ、言葉を失う。
眩しい朝日を背に立つ姿が、似合いすぎているその人は、三嶋怜生(みしまりょう)。
私、上野志穂(うえのしほ)の元同期だ。
彼の背は185センチと高く、いつもいつも見上げていた。
その頃が懐かしい。
いや、懐かしがっている場合じゃない。
どうして、彼に見つかってしまったのか。
絶句している私を面白がるように、彼は軽やかに笑う。
女性受けする甘いマスクなのに、笑う時や嬉しい時は、豪快に口を開けて歯を見せるところも変わっていない。
楽しそうに破顔する様を、なにも出来ずにただ見つめた。
「じゃ、また後で」
絵になる爽やかな仕草で、片手を軽くあげると、彼は真っ直ぐに建物へと入っていった。
その後ろ姿を微動だにせず、見つめ続ける。
彼が入って行ったのは、『タケウチ保険事務所』が入るビル。
私が勤めている会社であり、今から出社しようとしていた会社だ。
「嘘、でしょ」