秘密の片想い
動けずに呆然と立ち尽くす私に、新たな声がかけられる。
「どうしたの。上野さん。遅刻しちゃうよ」
穏やかな微笑みに促され、我に返る。
「武内所長、おはようございます」
武内所長の深みのある低い声は、渋い風貌に合っている。
性別は違えど、こんな風に歳を重ねていきたいと思える憧れの人。
「今日は代理店営業の担当者が代わって、本社から新しい営業が来るんだよ」
「そう、ですか」
まさか、まさかね。
私は現実を見ないように、注意深く回顧する。