秘密の片想い

「男の人が苦手で、こちらこそごめんね」

「そっか。うん。娘ちゃんにとっては、パパが一番だよな」

 胸の奥が小さく痛んだけれど、悟られないように明るく言う。

「んー。シングルだからかな。莉乃に男の人と接する機会を作ってあげられなくて」

「シングル……そっか。頑張ってるんだな」

「あの、だから。私、今は子育てに手一杯で」

「あ、ああ。悪い。変なこと言って。忘れて」

 降りる時にもう一度お礼を言って、莉乃と車を降りた。
 莉乃が眠っていたから、ちゃんと話せたのはよかった。

 それなのに、心は晴れない。

 最後に交わした会話と、もう忘れていた瑠夏から聞いた内容が、ご丁寧に三嶋の映像付きで頭の中で再生される。

『悪い。忘れて。変なこと言ってごめん。子どもはいらないから』

「わかっていた、ことだよ」

 何度も悩まされた幻覚。
 改めてリアルに再放送されて、胸が苦しくなるほど痛くなる。

「強くなるって、決めたじゃない」
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