秘密の片想い

 タケウチ保険事務所に出向いても、シーはいない。
 わかっていても、探してしまう自分に苦笑する。

 自分がウジウジ悩んでいた間に、シーは結婚をして、出産、子育て、離婚まで。
 実に様々な経験をしていた。

 自分はなんて馬鹿なんだろう。
 世の中から置いていかれたような気分になって、感傷に浸りたくなる。

 結婚、したから、突然姿を消したのか。
 不可解だった謎が突如として解けたのに、後味が悪くて堪らない。

 せめて、シーが今幸せなら「どうして結婚式に呼んでくれなかったんだよ」って文句も言えるのに。

 初めて見た、シーの泣き顔。
 思わず抱き寄せた、小さな肩。

 俺は……。

 八つ当たりしても仕方ないのに、つい武内所長にぼやく。

「恋人、いないらしいじゃないですか」

 武内所長は、わざとらしく驚いたような顔をする。
 食えない人だ。

「聞いたの? 上野さんに」

「はい。今は子どもで手一杯で、そんな気持ちの余裕はないって」

「ほら、絶対に敵わない恋人」

「え?」

「男より、言い方は悪いけど、ずっとタチが悪いよ。莉乃ちゃん命! だからね」

「じゃ、恋人って……」

 武内所長は意味深に頷いた。

 だから嫌なんだ。子どもなんて。
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