秘密の片想い

 莉乃は季節を先取りしたインフルエンザだったため、武内所長に連絡する。

「上野です。すみません。莉乃がインフルエンザになってしまって。一週間くらい休まないといけないと思います」

「そう。お大事にね」

 武内所長の電話を切ったあと、心配になって電話をする。
 知らなかったとはいえ、莉乃と過ごしてしまった三嶋の体調が心配だ。

 電話帳に残る、彼の電話番号。
 自分の番号もなにもかもを変えたのに、消せなかった番号。

 息をついて、思い切ってタップする。

「もしもし? 三嶋?」

「ああ」

 声に覇気がない。

「莉乃、インフルエンザで」

「ああ」

「もしかして、三嶋も体がつらいんじゃない?」

「ああ」

 どう考えても、応答がおかしい。
 電話も一方的に切れてしまった。

 待っていたタクシーが到着し、莉乃と乗り込んで行き先を告げる。

「あの、やっぱりすみません、行き先を変えていいですか」
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