秘密の片想い

 あの日から、引っ越していなければいいのだけれど。
 二度と来ないと思っていたのに、覚えていた自分を今は褒めてあげたい。

 アパートのドアの前に行くと、外に置いてあるカエルの置物がある。
 昔、私が冗談であげたものを、律儀に置いてくれてあるのに感激したっけ。

 そんな今はどうでもいいことまで思い出し、その置物を横にどけると、その下に鍵。
 これは無用心だよって、さすがに指摘しなくちゃ。

 あの日、酔った三嶋の行動を順を追って思い出していくと、胸がざわざわする。
 それでも、今日は人命救助が先決だ。

 腕の中でふうふう言っている娘を抱き直し、「ごめんね。莉乃と同じくらいつらい人が、この中にいると思うと放っておけないんだ」と、まだ意味を理解できない娘に謝った。

 アパートのドアを開ける。
 部屋は、あの日入った時と比べ物にならないくらい荒れ果てていた。

 やっぱり、忙しかったんだよね。

 私を気にかけていた、三嶋の数日を思い出すと居た堪れない気持ちになる。

 ひとまず、クッションとタオルで簡易的にベッドを作り、莉乃を寝かせる。
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