秘密の片想い
足取り重く武内所長の元に歩み寄ると、にこにこしている武内所長が私へ告げた。
「上野さん、三嶋くんとは希望生命に勤めていた時の同期だったんだってね」
ああ、どうしてそれを。
心の中でぼやいてみても、どうにもならない。
努めて平静を装い、返事をする。
「はい」
「知り合いの方が三嶋くんも心強いだろうから、上野さん、所内の案内してもらえるかな」
知り合いではありません。
そう言ってしまいたい気持ちを、心の奥底に押し込んで「はい」と短く返事をした。
「よろしくお願いします。上野さん」
朝の馴れ馴れしさは、どこへやら。
三嶋は、社会人らしく敬語を口にし、会釈をした。
面食らいつつも、他人行儀の方が私も助かると、胸を撫で下ろす。
「では、こちらへ」と三嶋を促し、指名された案内係に徹することにした。