秘密の片想い

 それから、出社するようになっても、三嶋はタケウチ保険事務所に顔を出さなくなった。
 あれほど顔を合わせていたのが嘘のように、パタリと来なくなった。

 ある日、真里奈が武内所長にぼやくと、思わぬ返事を聞いた。

「三嶋さん、最近全く姿を見ないんですけど、どうかされたんですか」

「本社の仕事の方が忙しいみたいでね。結婚を決めたらしいし」

「は」

 思わず反応してしまい、短い声が漏れた。
 ダメだな。今さら彼になにがあったって、私には関係ないのに。

 私の僅かな反応と声に武内所長は気がついたらしく、渋い顔をますます渋くさせ、顎をさすった。

「もしや、三嶋くん。重大なミスを冒してる?」

 誰に聞くともなく呟く武内所長に、真里奈だけ楽しそうに「三嶋さん、なにかやらかしたんですか〜」と聞いていた。
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