秘密の片想い

 家に帰るとアパートの前に人影があり、歩みを止めた。

「三嶋」

 どうしてここに。
 そう思う気持ちが、後退りさせる。

「待って」

 男の人の声を聞いて、莉乃が腕の中でむずかる。

「俺、肝心なことを、なにも言っていないんじゃないかって」

 ひと思いに告げられた言葉を聞いて、莉乃が本格的に泣き出した。

「ごめん。困らせるつもりはないのに」

 そう言って、彼は黙ってしまった。

「それなら、帰って」

 莉乃をあやしながら、強めに訴えても彼は首を横に振る。

 ため息を吐き、三嶋を無視してアパートに帰ろうとすると彼も私の後をついてくる。

「だから帰って」

 もう一度訴えても、彼は首を横に振るばかり。

「シー。俺が言っていいのか、わからないけれど」

 前置きをされ、なにを言われるのかと身構える。
 莉乃は変わらず泣いている。

 真っ直ぐな眼差しを向ける三嶋は、ゆっくりと息を吐きながら目を閉じた。
 そしてその目を再び開くと、思いを吐露するように話し始めた。

「俺は二度と、シーを失いたくない。そのためなら、なんだってする。信じてほしい。俺を、莉乃ちゃんの父親にならせて」

「は。なにを」

 言葉の意味を理解できなくて、何度も目を瞬かせる。
 それでも、三嶋は話すのをやめない。

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