秘密の片想い

 三嶋は三嶋で、武内所長に頼み込んだ内容を私に明かす。

「本社での仕事はそのままで、営業の合間にタケウチ保険事務所に顔を出してた」

「嘘」

「もちろん、タケウチ保険事務所の代理店営業の仕事も教わりながらだけど、してたよ。なかなかハードだった」

 それはそうだ。
 本来の仕事もあるのに、タケウチ保険事務所にも顔を出して。

「どうして、そんなことを」

 私が疑問を口にすると、三嶋は当たり前のことを話すみたいに言った。

「そうまでして、会いたかったんだよ。シーに。二度と逃げられない形で」

 真っ直ぐに向けられる眼差しに、嘘がないのはわかる。
 だからって、全てを受け入れられない。

「それで、シーに子どもがいるって知って。俺の知らない間に、結婚、出産、子育て、離婚。いろんな経験をしてたのかって。俺がぼんやりしている間に、すごく差をつけられてるなって、正直情けなくなったし、焦った」

 勘違いしていた彼も、すぐに真実を知る。
 そして真実を知って、彼の方が逃げたのだとばかり。
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